寺社探訪

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「ご遺体へのわいせつ行為」

ある日、仕事仲間から「変態がいましたね」と事件のことを聞きました。そして2月3日、東京地裁で判決がありました。この事件は、葬儀社社員によるご遺体へのわいせつ行為というものです。被害にあった故人とご遺族は、本当に悔しくてたまらないとお察しします。

 

ご遺体へのわいせつ行為は、強制わいせつ罪や死体損壊罪にはならず、当てはめられた法は東京都迷惑防止条例違反と不法侵入なのだそうです。都の迷惑防止条例というのは痴漢とかミラーマンとかミニにタコとかと一緒なのだと思われます。この犯人は5年に渡って、葬儀場の女子トイレをスマホで盗撮していたそうです。不法侵入はわいせつ行為を受けた本人やご遺族ではなく、施設の持ち主や管理者が被害者になります。結局、25件の盗撮と3件の不法侵入で起訴されました。ご遺体にわいせつ行為をした件では直接起訴できないのでしょうか。

実は法的には、ご遺体はモノとして扱われています。不遜な話で怒りを覚える方もいると思いますが、法には一貫性が重要ですから、ある法ではご遺体を人として扱い、別の法ではモノとして扱うということを避けるベクトルが働きます。ご遺体を運ぶ霊柩車は緑ナンバーで、法的には貨物車両なのです。例えば死姦したとしても、死因が無関係であれば法的には強制わいせつや遺体損壊にならず、物理的に形を変化させると遺体損壊と見做されます。だからといって不法侵入で裁くのが正当なのか、疑問を感じます。

 

それでも裁判では、ご遺体へのわいせつ行為が審議の中心だったようです。この葬儀社社員の行為は社会のモラルに反していて、賠償金を支払って済ませる性質の事件ではなく、刑事事件として法で裁かれ、そのことが抑止力として社会に機能すべき事案だと思います。性依存症だと開き直る被告とそれでも罪を問う検察のやり取りがあったようです。

検察側の懲役2年6ヶ月の求刑に対して、懲役2年6ヶ月の判決というのは、裁く法律がなくて罪と罰が合わない現象が起こったのではないでしょうか。罪の内容は変わらなくても、当てはめられる法律によって罰の重さが変わります。法は日々更新されて進化し、法が機能する範囲や公平性は美しいバランスを保って国民の生活を包み込むものです。この犯罪だけは被害者を守る法がないということでは公平性のバランスが崩れてしまうので、然るべき法の進化が必要だと思います。

 

ニュース記事のコメントを読むと、皆さん一様に故人の尊厳は守られるべきだということが強い言葉で書かれています。葬儀社社員の行動は異常性癖(ネクロフィリア)から来ていて、およそ一般的な理解の範囲外のもので、法的制裁が必要だという意見が多かったです。「私だったら大切な故人を霊安室に預けない」と書いている方がいました。昨今の東京の葬儀事情を考えると、ご遺体を霊安室に預けないというのは、不可能な場合も多いです。様々な事情で、現代では逝去から火葬までの期間が長くなっています。腐敗の進行を遅らせるためには、冷蔵霊安室に預ける必要が生じてしまいます。体液を抜いて防腐剤を注入して腐敗を避けるエンバーミングという選択も可能ですが、費用的にも感情的にも、まだまだ一般的ではありません。いつ腐敗が限度を超えるかなど誰にもわかりませんから、できるだけ腐敗を遅らせるために、やはり冷蔵霊安室に預けられるなら預けた方が良いです。耐え難い臭いを放つ緑色の皮膚をした故人を、親戚や会葬者に会わせるのは忍び無いことです。

 

では、安心してご遺体を霊安室に預けるにはどうすれば良いのか。葬儀社から霊安室のルールを説明してもらって信用するしかないのですが、どうしても信用できなかったら、棺の蓋にテープを貼って写真を撮って、遺族の前以外で蓋を開けないように依頼するなど、強引な方法しか思いつきません。

人件費削減のために葬儀業界のシステムに大きな改善点が埋もれてしまっていたのだと思います。どんな葬儀社も我が社ではこんな事件は起こり得ないと言うでしょうが、ひとりの社員に変質的な欲が芽生え、誰もいない空間でモラルのタガが外れてしまう可能性は否定できないと思います。我が社でも起こり得る事件と受け止めて、対策を講じることが重要ですね。事件を起こした社員が所属する葬儀社は、既に社会的制裁を受け、民事的な賠償もしていると思います。葬儀業界で働く者としては、「変態がいた」で済ませられません。葬儀には天変地異のような大災害でもない限り中止にならない強い推進力があります。そのくせ、遺族の意思決定を確認するポイントが短い時間に連発します。ですから、遺族と葬儀社の間にある程度の信頼関係がないと、すべての流れが一気に厳しくなります。

そんな訳で再び葬儀業界が信用を得られるためにというのも重要なのですが、被害者が受けた被害に見合う刑罰が加害者に課せられ賠償がなされ、法による抑止力が社会に働くことを願います。

 

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