寺社探訪

寺社探訪とコラム

「火渡り祭に行く 2023」

昨年に続き、高尾山薬王院の「火渡り祭」に行ってまいりました。火渡り祭は13時から国道沿いにある自動車祈願殿前の広場で行われるのですが、火渡りを希望する方に、朝9時から整理券が配られます。整理券は整列誘導のためで、無制限に配布されることになっています。昨年は寝坊して12時半に到着しましたが、今年は早めに到着して、整理券をもらってから薬王院までお参りに行き、開始前に火渡り会場まで下りてくるという予定でした。

予定は予定のまま終わり、結局また遅れてしまい11時前に到着しました。とりあえず会場へ行ってみますと、まだまばらな感じ。始まるまで2時間ちょっとありますが、既に場所取りをしている方々もいますね。出店も出ていて、去年よりは大規模になりそうな感じです。整理券をいただきましたが、一番早いグループではなく、3つに分けられたうちの2番めのグループでした。

山中の本堂へ行きたいのだが、自分の足で登っていたら微妙な時間になってしまうので、初めてケーブルカーを利用することにしました。「ケーブルカー=敗北」を意味していた昨日までの自分にさようなら。ケーブルカーの窓から見える登山者に神聖な負い目を感じながら、満員のケーブルカーで今年初の薬王院に向かいます。しかし、高尾山のケーブルカーって凄い急勾配ですね。

ケーブル駅からも結構歩くので、良い散歩になります。少しどんよりした空模様です。途中で寄進者の芳名を掲載した札がズラリと並んでいます。善行は善行と意識したら善行にあらず、と思っているので、寺院が寄進者の芳名を掲載するシステムは嫌いです。虚栄心を煽って集金する行為に思えるのです。それでもこのシステムが無くならないのは、結局寺院運営のために、このシステムの強力な集金効果に頼る部分があるからです。このブログを隈なくご覧の奇特な方はおわかりだと思いますが、かく言う私もこの強力なシステムに、捨てたはずの虚栄心を掘り起こされてしまっています。まぁ、自分の名前が掲げられていると単純に嬉しいものです。

すると、ものすごい怒鳴り声が聞こえてきて、周囲が騒然となりました。誰が何をしたか詳細は知りませんが、静止する人を抑え込んで興奮して怒鳴っていました。前回高尾山に来たときも、同じような光景を見ました。山歩きは同じ道を同じ方向へ進みますから、周囲がずっと同じ人というのはよくあります。私は自分が興奮するのも興奮している人を見るのも嫌いなので、こういう場面は苦手です。多分私なら、家族を殺されてもここまで取り乱して興奮しません。「何でも許されると思うなっ」と怒鳴っていたので、たぶん子どもが騒ぎ過ぎていた様子。世の中には些細なことでブチ切れて激怒する方もいますし、子供のすることは何でも許されると注意しない親もいますので、どちらが正義なのかはわかりませんが、爆発するまで溜め込む前に注意するか、その場を離れて距離を取るかすれば良かったと思います。

さてさて、誰かの怒りが雲を吹き飛ばしたのか、良い天気になってきました。納札所で古いお札を2枚と交通安全のお守りを1つ納め、本堂に向かいました。仕事でもプライベートでも車を運転するので、事故なく1年過ごせたことに感謝します。高尾山薬王院神仏習合の飯綱権現を本尊としているのですが、真言宗智山派なので神社ではなく寺院なのです。それでも参拝の列に並んでいると、半分以上の方がパンパンと柏手を打って参拝しています。親が子に二礼二拍手一礼の作法を教えている場面もありました。葬儀業界で仕事をしていると、宗派の違いに敏感になりますので、寺院で柏手を打つのを見るとモヤッとしてしまいます。しかし、多くの方がこれだけ顕著に神道の作法をしていても、薬王院は張り紙1つしていません。二礼二拍手一礼の作法でお参りすることは、神仏習合の権現を本尊とする薬王院にとっては間違いではないのかもしれません。

本堂前の授与所で交通安全の御守りを新しく買いました。次の1年も無事故で過ごせますように。下山は歩こうかとも思いましたが、往復チケットを買っていたので、ケーブルカーを利用しました。入院中に吉野家へ行くような気分で、背徳感が半端ないです。ケーブルカーを降りると、不動院( ↑ )に行者さんの一団が集結していて、観光客の皆さんが集まっていました。30分前に火渡り祭の会場に着きましたが、去年よりも人出が多く、相変わらず外国の人もたくさんいます。前回は山側から見学したので、今回は道路側から見学します。こちらの方が人が多く混雑しています。

昨年は同じ真言宗智山派大本山、川崎大師の柴燈大護摩供も見学しましたが、儀式の流れなどはほぼ同じです。高野山成田山の柴燈大護摩供も、動画を見るとほぼ同じような感じです。おそらく、勤修している行者さんたちも被っているのかなと思います。以前とある東京の大寺院の僧侶と話していると、護摩のお手伝いに関西まで行ったと言っていました。私たちにはわかりませんが、行者界では知る人ぞ知る、全国の火渡り祭を文字通り渡り歩く「火渡りマスター」がいるのかも知れません。

そんなことを考えている間にいよいよ始まります。大導師は高尾山薬王院佐藤秀貫首です。それにしてもすごい人ですね。警備員さんが人員整理する声が大きすぎるので、ちょっと対策を考えた方が良いと思いました。

昨年のレポートをご覧いただけると、ひとつひとつの儀礼を詳しく解説しています。ところで、この柴燈大護摩供(火渡り祭)を勤修している行者さんたちは全員僧侶なのかというと、そうではない可能性もあります。内部事情を知らないので何とも言えませんが、修験道というのは仏教と神道の間の微妙な融合部分にある宗教のようなもので、正体を掴むのが非常に難しいです。修験道の祖は様々な寺院や神社で祀られている役行者役小角神変大菩薩)ですが、役行者は僧侶ではなかったと言われています。日本には現実に僧籍を持たない行者もいて、修験道の山伏修行をしていくつかの法則をマスターして柴燈大護摩供で活躍している方もいるそうです。

薬王院真言宗智山派大本山であると同時に、関東修験根本道場として高尾山修験道の拠点でもあります。薬王院の佐藤貫首は、修験道の総本山と言われる大峰山で修行をされ、真言宗の僧侶として初めて「大峰山奥駈修行大先達」の称号を得られたそうです。指導する立場なので、大導師をする姿も自信に満ち溢れています。昔々の大昔、修験者は山に入って、このように身の回りに道具(法具)を並べて、身につけた修法で様々な祈祷をしていたのかと思うと、歴史と人の祈りのダイナミズムを感じます。神奈川県の大山の頂上から縄文土器が出土して、発掘調査したらそれが江戸時代の山伏の修行の跡だったというのはなかなかの歴史ロマンです。


さて、儀礼が進み、いよいよ火が入りました。今回も外国人の方々がたくさん見学されていましたが、彼らはこれを見て何を思うのか聞いてみたいです。私は今回は見たことのある作法ばかりなので、非常に時間を長く感じました。足が痛くなって、途中で立っているのがしんどくなりました。また参加することがあれば、檀木を奉納して貴族席に座らせていただこうかなと思いました。

こちらは湯加持(ゆかじ)という作法です。去年と違う行者さんがやっていたように思います。熱湯で身を清めるという無茶苦茶な儀礼ですが、まぁ、熱いと思います。これら一連の作法の中で、盛り上がるというと語弊がありますが、拍手が起こる場面がいくつかありました。ひとつは「寶剣」の剣捌きが見物者の思ったよりも素早く見事だったので、一生懸命練習したことが窺い知れて拍手が起こりました。もうひとつは、「願文」を読み上げ終わったときです。こちらは檀木の志納者全員の名前を読み上げるのですが、これが10分は軽く超えます。およそ2.3秒に1人のペースで読み上げますから、1分で20~30人、10分で200~300人の名前を読むことになります。去年は年配の行者の方が読み上げていたので息も絶え絶えの状態で、読み終えたときには大きな拍手が湧き起こりました。今年は別の少し若い方に変わっていましたが、やはり読み終えた時に拍手が起こりました。そしてもうひとつは、この湯加持のときに拍手が起こりました。熱いのによく頑張りましたの拍手です。

さて、いよいよ佐藤秀貫首が「火生三昧表白」を読み上げて、火渡りを始めます。佐藤貫首の声は腹の底から響き出るようで、聞く者の魂を揺さぶる感じがします。

火渡りを待つ行列に並んでいると、とにかく待ち時間が長いので、前にいた3人組の方が出店から焼きそばやら何やらたくさん買って来て、ムシャムシャと食べていました。一連の儀礼から火渡りまでの間はかなりの待ち時間が開いてしまうのですが、行者さんたちが私たち衆生にも火切加持や梵天祓いを行ってくれて、私たちは行者さんたちが作り出した神聖な場所へ入って火渡りするので、儀礼から火渡りまでは繋がっています。その間にムシャムシャ食べて腹を満たして向かうというのは、いかがなものかと思いました。霊山とされる山中で大声で激怒していた人も、場所柄も他人の迷惑も顧みずに子どもに大騒ぎさせていた親も、火渡り会場へ向かう道で信号無視して道路を渡る人も、そんな心構えでいながら神仏に手を合わせて願いを捧げるのは、どういう思考回路なのかと私は思ってしまいます。

とはいえ、何でも自己中心に考えてはいけません。神仏への接し方など、人それぞれ違いがあって当たり前。私だって誰かから見たら、不謹慎極まりないと非難されると思います。様々な人が火渡りをしています。どんな人にも分け隔てなく、火渡りを終えた全員に、佐藤秀貫首がお加持をしてくださっています。私の肩にも法具を当て「えいっ」とドスの利いた声でお加持をしていただきました。「ありがとうございます」とお礼を言うと「おつかれまさでした」と答えてくれました。

 

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