寺社探訪

寺社探訪とコラム

「孫にご注意」

なんでこんなに可愛いのかよ

孫という名の宝物

かつてそんな演歌が流行ったのですが、平均寿命が長くなり、90代の故人が全く珍しくもない昨今、喪主やその兄弟の孫世代がお葬式に参列することも多くなりました。家族間であっても、両親の孫に対する溺愛振りに思わず笑ってしまうことがあります。私事ですが、父の部屋にアンパンマンドラゴンボールの絵を練習した紙が置かれていたのを見た時、孫の恐るべきパワーを感じました。

お葬式は悲しい出来事である反面、そんなかわいい孫が一堂に会するビッグイベントです。打ち合わせの段階では厳格そうな人柄だった喪主でも、孫の前では無力にも崩れ落ちます。近頃は子どもを注意しない親が多く、お葬式の仕事中に困ることが結構あります。騒ぐ暴れるというのが顕著な例ですが、おそらくは厳しく抑えつけると心の成長を妨げる的な教育方針が市民権を得ているのだと思われます。私が代わりに叱ってやりたいとも思いますが、そんなことをしたら大変な目に遭います。なにせ相手は「大正義・お孫様」ですから、万にひとつも私に勝ち目はありません。

孫に対する直接の権利を保有しているのは母親、つまり喪主夫婦にとって娘あるいは息子の嫁です。孫と接触するためには、この母親に取り入らなくてはなりません。そのため、自分の娘でありながら、教育方針に口出しすらできません。やはり孫と触れ合いたいですからね、娘の教育方針がどうであってもそれが正解と認めざるを得ません。

ある寺院で行われたお葬式でのこと、喪主の孫たちが寺院の鎖樋にターザンのようにぶら下がって遊んでいました。子どもの親やその親の喪主たちは、そんな子どもたちが遊ぶ様子を側でニコニコと温かい目で見つめていました。朗らかな親子三代の触れ合いの時間を楽しんでいたのも束の間、鎖樋が千切れて破壊されてしまいました。そして子どもの親が千切れた鎖樋を私のところに持ってきて、「すいませーん、やんちゃでぇ」とのこと。

また、別のとあるお葬式でのこと。親族がたくさん集まったことで興奮してしまった子どもが、棺の前で「ハッピー、ハッピー」とハッピーソングを歌い出しました。その場には親族だけでなく、一般会葬者もお線香を手向けたり、故人と対面したりしています。周囲にいた親族はやはりニコニコの笑顔で「ありがとう、ばぁば喜んでるよ」と、ハッピーソングのお礼を言っていました。

そんな中、孫という名の宝物の存在を最も感じるのはお焼香のときです。お焼香が始まる頃には、孫は我慢の限界を超えていて、母親と共に式場のロビーや控室にいることが多いです。そんな母親にもお焼香の順番が回ってきます。つまり祖父母にとっては合法的に孫の管理権を奪うチャンスなのです。誰に頼まれることもなく、自分の方が故人に近い立場ということも忘れ、僧侶の読経中に式場を抜け出して孫のところへ向かいます。この時、娘の旦那及び姉妹、娘の旦那の両親というライバルを出し抜いて、真っ先に向かうことが重要です。ビーチフラッグさながらに孫を奪い取り、母親をお焼香に行かせます。孫を抱っこして、独占権取得の喜びに、ついついハッピーソングをハミングしてしまいます。母親が焼香を終え戻ってくる姿を見た時、「この子にもお焼香させよう」という新たな欲望が湧き上がります。独占権の延長を強引に押し通し、孫を抱っこしたまま焼香台に向かい、香を摘んて孫の額に押し頂かせ、「のんのん、のんのん」と言いながら無理やり合掌させます。これ、あまりにもやりたい人が多くて、孫の奪い合いになったり、孫にさせたいばかりに自分が焼香するのを忘れたりする人が続出しています。

と、皮肉ばかり書きましたが、孫にはお葬式の本来の姿を破壊する力があります。お葬式は故人を偲んで思いを伝えたり、故人の人生から自分の死生観を改にしたり、単に故人の死を悲しむだけではなく、故人との対話により大切な何かを受け取る場だと思います。孫というアイドルによってそれらが掻っ攫われても、親族たちは喜んでアイドルに夢中な姿を衆目に晒します。そうなのです。孫の恐ろしいところは、日頃創り上げた自分のイメージが破壊され、孫にメロメロな姿を周囲に晒してしまうことです。そして子どもは気まぐれです。自分のアプローチに応えてくれるとは限りません。片思いで冷たく無視される姿も、周囲に晒すことになります。

葬儀社側でも、この孫というアイドルを手懐けようとする担当者が現れます。「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」の精神ですね。しかし下手に手を出してしまったばかりにドツボにはまることも多々あります。どんな理由があっても、泣かれたら悪者認定されてしまいますし、「君子危うきに近寄らず」が正解と私は思っています。

 

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