寺社探訪

寺社探訪とコラム

「大型葬儀(安倍元首相の国葬を見て思う)」

安倍元首相の国葬が行われました。国葬当日は仕事が休みだったので武道館に献花に行こうかとも思いましたが、長蛇の列に並ぶことで何時間も過ごすよりも、自室で中継を見た方が意義があるという結論に至りました。賛否両論ありましたが、強行する政府と反対する人々がお互いに潰し合い、どちらの望んだカタチにもならなかったように思います。私的に思うことは色々ありますが、安倍さんの明るくてユニークで熱い部分に好感を持っていました。菅元総理の友人代表の弔事は、法的根拠やら費用やらの論争が加熱する中、未だ怒りと悔しさと淋しさの中で過ごしている菅さんの心情が表れていて、胸に迫るものがありました。

 

さて、「国葬の是非論」は各方面で行われていますので、当ブログでは葬儀業界で働く私の経験から、この度の国葬や大型葬儀についての情報をお伝えしたいと思います。

大型葬儀につきものなのは来賓です。遺族側にも見栄を張りたい気持ちがありますし、故人の功績が表せるような方に参列してほしい。例えば「お父さんの葬儀には総理大臣が参列した」という話は、孫の代まで家系の誇りとして語り継がれます。来賓としてどんな方が参列するか、というのは大型葬儀においてかなり重要な要素なのです。更に社葬であればビジネス的要素が加わります。会社にとって繋がりを深めたい相手や、繋がりを築きたい相手を来賓として招待して、関係性を強化するというビジネス的な要素もあります。今回の国葬で言うと、「弔問外交」というものですね。

今回はG7の首脳が参列しなかったと話題になりましたが、大型葬儀では失礼ながらVIPに格差をつけていることが多いです。特に国家としての公式行事などは、来賓といっても何段階にも分別され、席順も慎重に配慮されると思います。昭和天皇国葬では、アメリカのブッシュ大統領の序列を上位にするために、日本政府はかなり苦心したと言われています。

私が経験した大型葬儀では、来賓の分別は最大でも3段階で、概ね2段階でした。この来賓の区別のために、便宜上のネーミングが付けられるのですが、それが結構面白いです。遺族と会社と葬儀社が入念に打ち合わせする中で、便宜上付けられた内部だけの呼称ですから適当なのです。私の経験では「VIP」と「超VIP」とか、「普通来賓」と「特別来賓」などと呼ばれていました。表向きにはどちらも御来賓なのですが、葬儀スタッフ内ではインカムで「来賓の方来ましたぁ」「どっち?」「普通です」「了解」という会話が囁かれていました。

また、大型葬儀では焼香や献花の際に来賓の指名焼香や指名献花をすることが多いです。これは遺族の見栄を満たす効果がとても高いので、大型葬儀ではよく行われます。とある大型葬儀で司会をした時のこと、会葬者は2000名規模で、議員さんがとにかくたくさん参列した葬儀でした。一応、政党別に誰が参列するかという情報はわかっていたので、事前に指名焼香順を伺っていたのですが、開式1時間前あたりから、次々変更になります。葬儀委員側が把握していなかったVIPがいらっしゃると、その都度変更になるのです。開式直前には目まぐるしく指名焼香者とその順番が変更されていきます。葬儀委員長(引退した政治家)の指示の下、地元の市議会議員さんたちが、VIPがやってくる度に動き回り、「〇〇先生の前に▢▢先生追加で、肩書は△△△△で」という指示が次々と私に飛んできました。開式後、僧侶の読経が始まった後でも、追加の指示がありました。ともあれ、大型葬儀に限らず、来賓の指名焼香(献花)をすると、来賓者の品格を借りて、その場が厳かになる効果があります。あまり露骨でしつこいと厭らしく感じますが…。

 

大型葬儀で入念に打ち合わせをし、スタッフを多く配置して取り組むのが、参列者の流れ、いわゆる導線の問題です。これをいかに効率よくスムーズにするかが成功の鍵であり、思案のしどころです。運転手付きのVIP車両、一人で運転してくる一般参列者、それぞれ車で来られる方の駐車場への流れや、駐車場が満車になればどこへ流すかというところから、受付の混雑回避や、受付を済ませた方の待機所や焼香への順路の確保など、焼香後の返礼品のお渡しや帰路の流れ、タクシーの手配や運転手の呼び出しまで、どこかで流れが詰まってしまうことのないように、シミュレーションを重ねて思案します。それでもいざ本番になると、難しい部分や回避できない滞りが出てきます。今回の国葬では、帰りの車の乗車段階で流れが詰まってしまい、そのまま式場内まで渋滞の列が繋がって、献花を中断して時間待ちをしていましたね。「只今、乗車に時間がかかっております。 今しばらくお待ち願います」というアナウンスが頻繁に流れていました。このあたりをうまく運ぶには経験が必要で、武道館で国葬など、そう頻繁に経験できるものではないので、回避できない滞りは仕方ないのでしょう。そもそも武道館は葬儀用に建てられた施設ではないので、構造上無理なところが出てきて当然です。

 

今回国葬を見ていて興味深いものが、外国人と日本人の民族性の違いが、はっきりと表れていたところです。献花の最初のあたりは外国の来賓客だったので、日本式の行列や集団的行動に慣れないというか、そんな習慣が遺伝子にないという感じで、案内係の女性方が一生懸命秩序良く進めようとしても、バラバラでダラダラな献花になっていました。後半の日本人の献花を見てみると、4人ずつ列に並んで、左右に別れて規則正しく献花に進んでいました。お辞儀や作法も、外国の方は人それぞれで、日本人は一様に同じという、国民性がよくわかるものでした。ちなみに、この一度に献花に流す人数は、大型葬儀ではとても大事な要素です。一度に流す人数を多くすると早く流れますが、退路がじゅうぶんに確保できていないと、人と人とがぶつかってしまったり、どこかで詰まってしまいます。式場の構造や導線を考慮して、滞らないMaxの人数を探るのが肝です。

 

さて、献花は3時間ほど続いていたと思いますが、この間ずっと自衛隊の楽団が生演奏をしていました。すごいなぁとよく見てみると、楽団が3チームあって交代制で演奏していました。以前司会をした大型の神葬祭でのこと。儀式を務める祭主・祭員の他に、奏楽隊が10名ほどいらっしゃいました。その中に知り合いの神職さんがいらっしゃったので、「今日は参列者1000人ほどの予定で、玉串奉奠にかなり時間がかかる予定です。一応雅楽のCDも用意してますので…」と伝えると、奏楽隊の皆さんで相談して「とりあえず、ぶっ倒れるまで演奏します」とのことでした。玉串拝礼は二礼二拍手一礼という作法なので、仏式のお焼香より大幅に時間がかかります。その時は皆さん根性で演奏しきっていましたが、3チームで交代というのは、なるほどと思いました。

 

演奏する方は交代できるのですが、交代がいないのが喪主で、安倍昭恵さんは相当に大変だったと思います。しかも、参列者も何時間も待たされていますから、友人だったり知った仲であれば、ひと言安倍昭恵さんに声をかけてあげたいと思うのが人の情です。まぁ、私が来ましたよアピールしたい人もいたでしょうが、とにかく喪主に声をかける渋滞ができていました。以前、有名企業の本葬儀を三部制で行ったことがあり、一部が15時から、二部が16時半から、三部が18時からという構成でした。このときは途中で何度も「喪主の休憩」というのがありました。それを思えば、安倍昭恵さんは休憩無しで4000人以上の参列者を迎えたのですから、大変という言葉では表せないものがあります。

 

無宗教葬儀で献花を行う場合、参列者の数だけ献花を用意するというのは珍しいです。大抵は参列者数より少なめに用意します。今回は武道館てすから、献花台も大きく参加者が供えた献花を全て置くことができる広さがありましたが、式場の大きさによって献花台の大きさも限りがあります。積み上がった献花が崩れ落ちてしまわないように、ある程度のところで、供えられた献花を取り除きます。武道館の外に設置された一般国民向けの献花台では、一定量積み上がると、係の方が取り除いていました。通常の無宗教葬儀ですと、取り除いた献花をもう一度お盆に並べ直して使用するので、参列者数より少なめで大丈夫なのです。ですが、使い回していると批判されたらその通りなので反論はできません。国葬儀ともなると使い回すなどということは断じて許されないのでしょう。

 

今回の国葬儀に限らず、参列者が1000人を超えるような大型の本葬儀(先に密葬を行い火葬に伏した後、広く参列者を迎えて行われる骨葬儀)の場合、焼香や献花を終えた参列者は、随時解散といいますか、そのまま帰られる方が多いです。今回の国葬儀では、葬儀委員や一部の関係者以外の方は帰っていたようです。なので、最後喪主がお骨を抱いて退場し、車でご帰邸されるときも、ほとんど誰も見守っていないというか、数万人が訪れた儀式のクライマックスなのに、数名しか残っておらず、なんか拍子抜ける感じが否めません。だからといって見送りのために残ってもらうと、その後見送りに残った人たちが一斉に帰るから、混雑でパニックになってしまいます。やはり、献花が済んだ順番にゾロゾロ帰っていただくのが1番スムーズなんですね。まだ今回は自衛隊(儀仗隊)の方々が見送られていたので良かったです。盛大な葬儀だったのに、終わった頃は喪主周辺しか残っておらず、寂しい感じになってしまうことが結構あります。そんなときは葬儀社のスタッフ一同がご丁重にお送りします。

 

さてさて、様々に考察しましたが、世間で問題として注目されていることと、全く違う視点で国葬を見て感じたことを綴りました。世間で問題として注目されていることも、大事なことと思っていますし、今後どうなっていくのか注視したいと思っていますよ。しかしどうしても職業柄、あのトリックアートのような生花祭壇、すごかったですねぇ。と、なってしまいます。

 

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