寺社探訪

寺社探訪とコラム

「節分会に行く」

2月3日は節分で、豆まきをする日です。幼い頃の遠い記憶に、玄関に向かって豆をまいたり恵方巻きを食べたり鰯の頭を吊るしたりした映像が残っています。恵方巻きは関東ではセブン-イレブンが流行らせたのだそうですが、私の育った関西では各家庭に親しまれていた風習です。「今年は北北東」などと方角を指示するシャーマンのような母親に監視されながら、姉とふたりで立ったまま太巻きを黙々と食べたのを覚えています。太巻きを食べている間は話をしてはいけなくて、子供だったので我慢できずに姉とゲラゲラ笑って母に怒られた記憶があります。

さて、やってきたのは京王線高幡不動駅です。節分も初詣と同じく、寺院でも神社でも行われています。元々は中国から伝わり変化していったものだそうです。季節の変わり目は寒暖差が激しかったり、異常気象になったりと、農作物が被害を受けたり、体調を壊すことが多かったので、それを鬼の仕業としたのでしょう。私は「鬼やらい」という言葉が頭に浮かびますが、各地で呼称は違うと思います。昔から宗教に関係なく、鬼を退ける儀式のようなものが行われてきました。

駅前商店街から高幡不動尊までは門前の商店街になっています。写真は人がなるべく映らないタイミングで撮っていますが、実際には参拝客で賑わっていました。それでも、昨今の節分はひと昔前の節分とは様相が違ってきているそうです。節分といえば「豆まき」というのが私含めひと昔前の発想で、現代の節分といえば「恵方巻き」なのだそうです。豆をまいたり食べたりすることよりも、恵方巻きを食べるイベントになっているそうです。恵方スイーツまで登場していて、加速度的に進化している感じを受けました。

高幡不動尊は交通量の多い道路に面しているので、仁王門前には警察や消防の方がたくさんいて、交通整理をしていました。このあたりでは人が混雑していますから、人の流れに沿って歩いていれば目的地に到着します。それにしても、曇天の見本のような空模様です。

仁王門を入ると、高幡不動尊のシンボルである不動堂とお札所のある宝輪閣に囲まれたスペースがあります。ここが豆まきの場所のようで、宝輪閣の2階から豆がまかれるそうです。高幡不動尊の節分会はコロナ禍以前であれば4万人という人出だったそうです。有名人が豆まきをするのは数年ぶりとのこと。境内を見るに、まだまだ人出は戻っていなさそうです。以前、高幡不動尊でこの豆まきをする人を募集していたのを見たことがあるのですが、護摩供と授与品をいくつかとレンタル衣装と食事付きで7万円くらいでした。他の寺院や神社のも少し調べてみましたが、有料でも料金や内容が違っていたり、無料で抽選や先着順になっていたり様々でした。私の想像では、池の鯉に餌をあげる感覚に近いのかと思いますが、よく考えると嫌な例えですね。興味のある方は調べてやってみてはいかがでしょうか。

私が訪れたのは12時40分くらいです。12時45分くらいから協賛の法人や個人の名前が放送されて、その途中で不動堂からガンガンと鐘が連打され、奥の本堂の方から中央の参道を通ってお練り行列がやってきました。山の上から降りてくる感じです。錫杖を持った世話人さん2名が先頭で、紫色の衣を着た僧侶が続きます。その後ろから裃を来た方々が練り歩き、周囲で見学されている方に豆を配っていました。

裃を着た方々は結構大勢いらっしゃって、おそらくは高幡不動尊の檀家の役員の方々や日野市ゆかりの議員さん方、地元の名士の方々だと思われます。もしかしたら上記の募集に申し込んだ方もいらっしゃるかもです。節分に豆をまくのは、季節の変わり目に現れる鬼を払うためなのですが、なぜ豆なのかと言いますと、五穀は人の生活の糧ですから、大きな力が宿るものと考えられたそうです。その力で鬼を追い払うという訳です。

節分の豆まきで話題になるのが、有名人の方々の参加です。東京にはいくつかの寺社で有名人を招いて豆まきをしています。芸能人の方々にとっては、豆まきの仕事ってどうなんでしょうね? 寺社にとっては参拝者を増やすためにもスペシャルなゲストに来ていただきたいでしょう。参拝者にとっても、どんな有名人に会えるのか楽しみな部分でもあります。都心の方は有名芸能人が多かったり、下町だと芸人さんが多かったり、様々に違いがあります。都心の方は今年もコロナ禍で豆まき中止というのが多かったように思います。高幡不動尊の13時の回に出場した有名人の中で私が知っていたのは、つのだ☆ひろさんのみでした。この方は靖国神社のみたま祭りで毎年ライブをされています。私はテレビも見ないし芸能人も知らないので、誰がいてもその有り難みが分からないと思います。ただ、祇園の舞妓さんがいて、ちょっと嬉しかったです。


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BBCが製作した舞妓さんのドキュメンタリーを見てから、その特殊で儚い生き方に惹かれてしまいました。京都から舞妓さんと芸姑さんがおひと方ずついらっしゃっていました。宝輪閣の2階からゲストさんがひとりずつ挨拶されてましたが、舞妓さんの「おたのもうしますぅ」という花街言葉を聞いて、本当にこんな言葉で喋るんだぁ、と感動してしまいました。

お練り行列の最後は、高幡不動尊貫主様です。高幡不動尊真言宗智山派の別格本山という寺格で、貫主様は智山派の大僧正という最上の僧階を得ている方です。僧階など私のような衆生には関係ないのですが、お寺を支えている檀家さん方にとっては、「うちの住職は大僧正」というのが大きな誇りになるそうです。この後、行列は境内の外に出て、仁王門から入り直して不動堂へ上がっていきました。有名人の方々だけが宝輪閣の二階に現れます。その他の大勢いらっしゃった裃を着た方々は不動堂に残って、そのまま護摩供が行われるようでした。

豆まきが始まりました。家族連れも多くて、一番人気があったのはハロー・キティでした。さすがにグッズだけで年間数千億円売り上げる世界的なスターです。昨今では小分けのパックになった豆をまく方が多いと思いますが、高幡不動尊ではパック無しで剥き出しの豆をまいています。豆まきの原型ですが、これは拾うのが大変です。前の方にいる人々は心得ていて、エコバッグ的なものを広げて豆を受け取っていました。有名人の方々はビニール手袋をして、バンバン豆を投げます。

鬼を払うために投げた豆を拾うというのも変なイベントです。そもそも鬼を払う儀式だったので「鬼は外」のみのコンセプトだったものが、「鬼が外なら内は福か?」と対称的思考が働いて「福は内」が加わるようになり、好戦的でなく穏便好きな日本人にとっては「福は内」こそ節分のコンセプトのようになってしまったものと推測されます。ですから、昨今の豆まきは「福は内」しか言わないことが多いです。ちなみに、高幡不動尊の境内には鬼より怖い不動明王がいらっしゃるので鬼はいません、ということで「福は内」のみです。まぁ、高いところから「鬼は外」と投げつけられた豆を拾うのも、人として屈辱的すぎてやっちゃいけないイベントのように思います。

エコバッグどころか手ぶらだった私は、有名人の方々が投げた豆ではなく、特設売り場で福豆を買い求めました。200円でした。帰りに聖蹟桜ヶ丘駅京王百貨店のデリカのフロアに寄ってみました。せっかくなので恵方巻きを買おうかと思いついたのです。そもそもあるお店の他に特設のブースを設置して、各店舗で恵方巻きを売っていました。フロアの各店を回りながら、私が知らなかったここ数年の節分事情を思い知ることとなりました。中華料理屋さんが恵方饅を、おこわ屋さんが恵方おこわを売っていました。「恵方」を付ければ何でも良いのか? と、ボヤきつつ、正しき恵方巻きを求めて歩き回ります。恵方巻きは、食べ始めから食べ終わりまで、立ったまま恵方を向いて、喋らず黙って食べ切るものだというのが、私の正しき恵方巻きの食べ方です。売り場の恵方巻きは概ね1500円くらいで、3000円を超えるものもありました。黙って一気喰いするには豪華過ぎて、結局セブン-イレブン恵方巻きを購入しました。自宅で玄関に向かって福豆を投げつけ、南南東を向いて恵方巻きをムシャムシャと食べました。隣に姉がいるような、上から母が見下ろしているような、変な錯覚を感じました。年の数だけ豆を食べると健康上問題がありそうだったので、それはやめておきました。

 

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