寺社探訪

寺社探訪とコラム

浄土宗 浄真寺(九品仏)

浄土宗 浄真寺(九品仏) 目次

名称・寺格

九品山 唯在念仏院 浄真寺 と称する浄土宗の寺院です。寺格は特にありません。九品仏浄真寺と呼ばれています。

創建

そもそも世田谷を治めていた吉良氏の奥沢城が廃城になり、城跡地を名主の七左衛門が買い取り、寺領として寄進しました。そこへ珂碩(かせき)上人がこの地を徳川幕府から賜って延宝6年(1678年)に浄真寺を開山しました。

本尊

釈迦如来

ご利益

各種ご祈願を受け付けています。毎日夕勤行の際に追善供養として経木塔婆回向をしています。

みどころ

極楽浄土をイメージした境内に九体の阿弥陀仏がご安置されています。開放的な本堂はどなたでも上がって見学することができます。特に紅葉は都内随一の素晴らしさで、阿弥陀仏に導かれる西方極楽浄土の世界を歩く気分が味わえます。

アクセス

東京都世田谷区奥沢7-41-3

東急大井町線九品仏」徒歩5分

探訪レポート

東急大井町線九品仏駅を下りるとすぐ参道入口になります。駅から門前の商店街の雰囲気は松蔭神社によく似ています。とても有名なパン屋さんがあると聞いたことがあります。平日の午後でしたが、かなりの人出でした。というのも九品仏は紅葉が有名で、この日は12月初旬でしたが、まさに紅葉真っ盛りでした。

まずは参道を歩きます。この雰囲気は豪徳寺に似ています。高い黒松の並木を歩くのですが、枝を払った背の高い松は、倒れてきそうな迫力があります。神聖な場所へ向かう道なので、あまり早足にならないように歩いて行くと、一歩進む毎に心が落ち着いていきます。

総門に到着しました。案内板を見ると開山忌法要が行われている時間のようです。すでに門の内側に色づいた紅葉が見えますね。扁額には「般舟場」と書かれています。説明書きによりますと、般舟(はんじゅ)三昧経という古い経典があり、常に行道念仏して眼前に仏を見ることを示しています。この寺院が念仏の道場であり、訪れる方々に往生を願う心が自然と発するように掲げられています。

総門を入るとすぐに三途の川があります。九品仏は広い敷地を極楽浄土に見立てているとのことですが、境内に入ってすぐに仏教的コンセプトを感じます。三途の川があり、橋が架かっていて、橋の袂にお地蔵様。橋を渡ると閻魔様がいらっしゃいます。

閻魔堂は最近新しく改築されたようです。紅葉が素晴らしくて、写真を撮る方々がたくさんいました。九品仏浄真寺はすべての堂宇、すべての仏像が撮影可としている珍しい寺院ですが、当ブログのコンセプトで堂内の撮影は控えています。そこはぜひ実際に訪れて見てみてください。閻魔堂の入口には「うそをつくな」「わるいことをするな」というのぼりが立っています。中へ入ると、中央に閻魔大王、左右に奪衣婆と懸衣翁が安置されています。まさに地獄の裁判ですね。ここではお賽銭を投じると、閻魔大王からの音声メッセージが流れるというアトラクションを体験できます。奪衣婆は三途の川の岸にいてやってきた人の衣服を剥ぎ取り、懸衣翁が木の枝にその衣を掛けると、枝のしなり具合でその人の悪行が計られるというものです。奪衣婆はご安置されている寺院を稀に見かけますが、懸衣翁はなかなか見かけないので貴重です。地獄の釜が開くと言われている初閻魔の縁日とお盆の日(1月と8月)には双盤念仏が行われるそうです。


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双盤念仏は、大きな双盤鉦という鐘と太鼓を叩きながら、節のある念仏を唱える行事で、南伝仏教のような印象を受けます。

境内はモミジが見事に色づいていて、撮影する方がたくさんいました。私もこうして寺社を訪れて写真を撮る機会があるのだから、ちゃんとしたカメラが欲しくなりました。

境内には様々な碑や像が建っています。全てを紹介できませんが、こちらは十夜講の供養塔です。十夜講は、浄真寺で11月に行われている十夜法要に参加する講の1つだそうです。ちなみに十夜法要でも双盤念仏が行われるそうです。

しかし本当に紅葉が美しいですね。極楽浄土を体感できる境内ということですが、日常からかけ離れた別世界にいる感覚になってしまいます。

こちらの門をくぐって開山堂へ向かいます。九品仏浄真寺は、延宝6年(1678年)に珂碩(かせき)上人によって開山されました。そもそもこの地には奥沢城というお城がありました。境内には奥沢城跡の石碑があります。秀吉の小田原征伐で北条家が滅亡した頃、奥沢城も廃城になり、荒れ放題になっていきました。その後、新しい村が独立して檀那寺が必要になり、そこで地主がこの地を寺領に寄進して、ちょうど寺領を求めていた珂碩上人がやってきたということだそうです。

手水舎の水盤に紅葉の葉が沈んで風流ですな。開山堂では法要が行われていますので、念仏の声が聞こえてきます。手水舎の奥にあるのはさぎ草を模したものです。この地にあった奥沢城の常磐姫は、領主吉良家に嫁いで側室となり寵愛を受けたのですが、他の側室から妬まれて不義の噂を流されてしまいます。無実を訴えるために常磐姫は白鷺の足に文を結んで実家の奥沢城へ放ちますが、吉良家の殿様が狩りをしていてその白鷺を射落としてしまいます。文に気づいて不義の噂の真相を知った吉良家の殿様が慌てて世田谷城に駆けつけましたが、常磐姫は潔白を証明するために自害した後でした。常磐姫は奥沢城近くに埋葬され、そこに咲いたさぎに似た白い花がさぎ草です。8月上旬に境内のさぎ草園で花を咲かせるそうです。

1階が寺務所になっていて、2階が開山堂です。階段を上がって法要中でしたが、お参りさせていただきました。珂碩上人は江東区にある霊厳寺を開山した霊厳上人の弟子の弟子で、師僧の元で明暦の大火で消失した霊厳寺再建の責任者として功を成した僧です。九体の阿弥陀如来坐像と釈迦如来像造立という大願を果たして霊厳寺に安置し、越後の寺院で住職として務めていました。その後は世田谷奥沢の浄真寺建立に際して、地元民の招きもあって、この地にやってきたという方です。そこで、自身の生涯渾身の作である阿弥陀如来像と釈迦如来像を浄真寺に遷すというのが、なかなか珍しい行為かと思われます。そのために浄真寺は九品仏として有名寺院になるのですけどね。

開山堂の正面にお地蔵様が2体ご安置されています。奥のお地蔵様が水子地蔵です。手前のお地蔵様はただ地蔵と看板に書かれています。地蔵菩薩様は如来から菩薩になって、三途の川や地獄まで衆生を救うために寄り添ってくださる仏様です。九品仏浄真寺のコンセプトであるご浄土にも、たくさんのお地蔵様がいらっしゃいます。

開山堂の左に、三十三観音堂があります。この建物は元々は奥沢神社にあったものを移築したそうです。法華経の普門品というお経(観音経)に、観音菩薩衆生救済のために三十三体に姿を変えると説かれています。その数字にあやかって、三十三観音を巡礼することが全国で流行しました。おそらく最初に西国三十三観音があって全国に広まったのだと思います。西国三十三観音、坂東三十三観音秩父三十四観音を合わせて、百観音巡礼が有名です。川崎大師に百観音お砂踏み所がありましたね。三十三観音巡礼は全国あちこちにあり、九品仏浄真寺の観音様は、江戸三十三観音の1つに挙げられています。

開山堂入口辺りから東門方面です。ここまで紅葉だらけのお寺も珍しいです。どこを撮っても美しい中、ベストショットを求めてカメラを構える方々がたくさんいました。

さらに境内を奥へ進みますと、楼門があります。寛政5年(1793年)建立のかなり立派な楼門で、世田谷区の文化財に指定されています。阿形吽形の金剛力士像があり、楼上には阿弥陀如来像と二十五菩薩像がご安置されています。この門から内側がいよいよ聖域(ご浄土)ということです。阿弥陀如来と二十五菩薩に導かれて浄土へ入るというコンセプトです。

楼門を入ると左側に鐘楼堂があります。江戸時代後期の鐘楼堂とされています。こちらの梵鐘は宝永5年(1708年)の作で、東京都の文化財に指定されています。鐘楼堂も梵鐘も彫刻が凝っていて見応えあるそうなのですが、あまり近くに行けないのでわかりませんでした。

そして、このエリアには九品仏の象徴でもある九体の阿弥陀仏をご安置しているお堂が3つ並んでいます。ひとつのお堂に付き3体ずつ安置されているので、九体になります。左のお堂が下品堂になります。下品上生・下品中生・下品下生の3体の阿弥陀仏がご安置されています。

中央に上品堂があり、こちらも3体の阿弥陀仏がご安置されています。それぞれに手の位置や印の結び方などが違っていて、どこが違うか書かれた説明書きも置かれています。像高2m80cmというのは目にすると想像したよりも大きな像で、青い螺髪が目に鮮やかに映ります。

右側にあるのが中品堂です。上中下となっていますが、この区別は仏様ではなく私たち衆生阿弥陀仏への関わりの濃淡や信心の浅深に合わせて、それぞれに対応するための九体の仏様がいらっしゃるということだそうです。2014年から20年間の予定で、本堂の本尊含め10体の仏像の大改修事業が行われています。造立されてから約300年で、初めての大改修だそうです。訪問時は下品中生の阿弥陀様がお出かけ中でした。

3つの阿弥陀堂の正面に本堂があります。こちらの本堂には釈迦如来がご安置されています。本堂の前に鷺が二羽いて、おみくじが結びつけられています。常磐姫の伝説を真似たのでしょうね。

こちらは靴を脱いで上がるようになっていて、本堂の中のスペースにも上がることができます。中には授与品と御朱印の受付があり、庭に向かってベンチが置いてあって、庭を眺めながら座ることもできます。割と自由に堂内を見て回れて写真も撮れるので、かなり開放的な寺院だと思います。スリムで大きな釈迦如来像でした。

本堂の右側には仏足石があり、小さな枯山水の庭が見えます。本堂内に置かれていたベンチに座ると、ちょうどこの枯山水の庭を見下ろす形になり、その奥に紅葉の並木道が見えます。風情があるというか、とても贅沢な景色です。

こちらは庚申塔が並んでいます。青面金剛の下に三猿という石碑なので、同じ地域の歴代の庚申塔なのかもしれません。さて、この九品仏浄真寺は紅葉の他に、二十五菩薩来迎会、通称「おめんかぶり」という行事が有名です。これは現代の感覚で見るとちょっと笑ってしまうような行事ですが、極楽浄土へのお導きを示した厳粛な儀式です。


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現在はコロナまん延防止のために中止が続いていて、次回の予定も未定だそうですが、是非訪れてみたい行事です。3年に1度の5月5日というのが通例の開催だそうです。

それにしても評判に劣らぬ紅葉の名所です。これだけの絶景を維持するのは大変だと思いますが、実際に訪れてみると、想像を超える景色を目にすると思います。奥多摩など紅葉の名所は多々ありますが、紅葉が見られる寺社として、東京都内ではNo,1なのではないでしょうか。

 

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