寺社探訪

寺社探訪とコラム

「おかがら火・うそ替え神事に行く」

ずっと気になっていた伝統行事がついに開催されると知り、夜の谷保天満宮にやって来ました。うそ替え神事とおかがら火というイベントが同時開催されます。うそ替え神事は天満宮ではおなじみのイベントで、各天満宮によってやり方が多少異なりますが、鷽(うそ)という鳥の人形を用いて、自分の災いや悪事を嘘にするというダジャレイベントです。おかがら火とは「庭燎祭」という神事です。高さ3mの薪の山を2基、一斉に火をつけてどちらがよく燃えるか競うという行事です。

えっ? 聞き返したくなる神事ですよね。競って、それで? は謎です。この謎を目にしたくてやって来ました。谷保天満宮は大鳥居をくぐり境内を奥へ向かうと坂道を下るようになっているのが特徴です。露店が出ているかなと思っていましたが、何もありませんでした。左手前方のテントは、たぶん酉の市の準備だと思われます。周囲の道路は本当に今日ここでイベントがあるのかと疑いたくなるほど閑散としていて、鳥居から参道へライトアップされていなければ知る人ぞ知る謎の集会です。

手水舎で一応清めてから境内に向かいます。ここまで来ると人の気配もしっかりあって安心です。どうも高尾山薬王院の「ひとり護摩供」や、靖国神社の「ふたり昇殿参拝」の後遺症で、人が集まらないことに対する恐怖心があります。

たくさんの方が集まっています。まだ神事は始まっていない様子です。天満宮の牛も待ちくたびれたように寝転んでいます。あたりは水浸しで、かなりの数の消防隊員がいらっしゃったので、事前準備に水を撒きまくったのだなとわかりました。水の匂いに紛れて、ガソリンの匂いがもしました。

見学できそうな場所へ移動しました。神事が始まります。はじめに祭主が祝詞を奏上します。祭員の指示で、見学者一同は頭を下げて聞きます。数百人くらいかな、千人いるかはわかりません。しかし、昨年まで中止続きで、今年開催されるかどうか、ほとんど情報発信されていなかったのに、結構集まっていると思います。地元の人がほとんどの様子で、無病息災を願う神事ですので、小さなお子さんのいる家族連れが多かったです。

修祓の儀が始まりました。薪の山をお祓いしてから、見学者をお祓いします。祭員の案内で頭を下げてお祓いを受けます。行われた神事はこんなもので、簡素なのだなと思いました。

さっそく祭主が薪の山に火をつけます。周囲のみなさんも固唾を飲んで見守る、緊張の瞬間です。

ぼゎぁーと燃え上がると、「おおぉぉ」と歓声が上がりました。真正面で眺めていたスーツの集団が神職に促されて移動します。どうやら谷保天満宮の奉賛会の役員の方々のようです。これから本殿で神事が行われるとのこと。この燃え上がった火については「この火に当たると無病息災と言われていますので、皆さん火に近づきすぎないように注意してご神徳を受けてください」と言い残して神職さんたちはみんな去ってしまいました。ここから先は消防隊員にお任せなのでしょうか。

また少し場所を移動してみました。こちらの方はまだまだ燃えていませんね。そう言えば同時に火をつけてどちらがよく燃えるかを競う神事だったはず。右。右です。右の勝ちです。後ろの方で消防の方がホースを構えて中腰で待機しています。ご苦労さまです。この薪の山は周囲を竹で囲んでいて、火が回るとパンッという破裂音がします。この神事に竹を提供したであろう人が「〇〇本切ったんだから」と周囲の人に言っていました。地元に支えられた行事ですね。よく燃えている箇所がゴゴッと崩れると「わぁぁぁ」と歓声が起こります。

燃える火にあたってご神徳を得る方々です。なんと申しますか、なにかイベント的なものがないと、じっとみんなで火を見ているだけの行事になっています。本来ですと、獅子舞とか、子どもの踊りとかがあるそうです。やはりコロナの関係で簡素に行われているのだと思われます。例大祭とは違うので、地域のお祭好きの皆さんも出番ではないようですね。静かに静かに見守るイベントです。

本殿の方へ行ってみますと、本殿内に役員の方々が参集して、神事が執り行われていました。表で行われていたのは簡易的なもので、神社の公式行事ですから、ひと通りきっちり儀礼を執り行う必要があるのですね。私は靖国神社の崇敬奉賛会に入っていたことがあって、春秋の例大祭に招待状が届いていたのですが、一度も参加しませんでした。そんなときも役員の方々が参集してひと通りきっちり儀礼が執り行われていたと思われます。さて、なぜか拝殿の外で直立している方々が数名いました。よく見ていると、中で行われている神事に合わせて頭を下げたり柏手を打ったりして、外から無理やり参加していました。すごい信仰心です。更に不思議だったのは、そんな方々の先頭で一心不乱に般若心経を唱えている方がいらっしゃいました。時に信仰心というものは不思議な現象をもたらすものです。

社務所はもちろん営業中です。うそ替え神事は天満宮独自の行事なのですが、「鷽」という鳥の人形と、「替える」という行為がポイントになっています。湯島天満宮では前年購入した鷽人形を奉納し、新しいものと「とり」替えるという行事になっています。亀戸天神社でも同様ですが、前年よりワンサイズ大きめの鷽人形を買う風習になっていて、全部で10サイズあります。本家の太宰府天満宮では、夜中に人々が買い求めた鷽人形を持って集まり、宮司のアナウンスで「替えましょう、替えましょう」と言いながら、近くにいる方と鷽人形を交換していきます。まさに鷽替えです。この鷽人形の底に記号が書いてあって、後で抽選会が行われるというおまけ付きです。

谷保天満宮のうそ替え神事はというと、社務所で鷽人形を買い求めると、巫女さんが手元にある鷽人形と取り替えてくれます。簡単ですね。鷽人形にはおみくじが付いているそうです。多くの天満宮では、うそ替え神事は年始に行われます。年明け最初の縁日に行うことが多いです。なぜ谷保天満宮では11月3日なのかはわかりません。

何もイベント性のない、ただ火が燃えているだけです。火渡りとかしたらどうかな、露店をたくさん置けば良いのに、雅楽や舞い、和楽器の奉納とかどうかな、などと行事を盛り上げる方法を考えつつ、火が燃えるのを見ていましたが、これはこれでいいかも・・・と思うようになっていました。国立市の人たちは、他所から沢山の人に集まってほしいなんて思っていないかも。国立市の人たちが良ければ、それがいいんだよ。などと黄昏気分になってしまいます。これは、キャンプする人はよくわかると思いますが、火をずーっと見ていると、それだけで良くなる症候群です。他に何もしなくても、パチパチ燃える火を見るだけで時間が過ぎていくことが、最良の時間の過ごし方に思えてくるのです。というか、それしかできなくなる。他の何も不要になるのです。

火の勢いが大きく、最高潮に差し掛かった様子です。燃え盛りというやつです。顔も火照って熱くなります。私の傍で、80歳くらいの老婆の二人組や還暦前後の夫婦が、火を見ながら他愛もない話をしています。無病息災を求めて火を見つめて過ごしています。社務所の玄関の方から、役員の方々が仕出し弁当屋さんの紙袋を持ってやってきました。おそらくコロナ以前は、会食の席が設けられてのでしょうね。本殿内の神事は滞りなく済んだ様子。皆さん地元の名士なので、知り合いを見つけては話しかけています。3年ぶりに開催できて良かったとか、思ったよりも人が多く集まったとかおっしゃってました。神職さんも数名やってきて、地元の顔見知りの方々に挨拶をしていました。私は引っ越しばかりしてきて、根無し草的な生き方が性に合っているのですが、こういう地元民的繋がりも良いなぁと思います。

空に月が見えます。火の粉が舞い上がって、空に溶けていきます。時計を見ると開始から1時間経っていました。この後どうなるのか見届けたい気もしますが、まさか火渡りが始まることはないと思います。消えるまで待つと翌朝までかかりそうなので、良きところで消防隊員の方々が消火して終了だと思います。やはり、もう少しイベント性があれば良いと思ってしまいますが、大騒ぎと人混みが苦手な私自身は、このままでも良いと思える行事でした。

 

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