寺社探訪

寺社探訪とコラム

「最澄と天台宗のすべて」

東京国立博物館で11月21日(日)まで開かれている展示会「最澄天台宗のすべて」に行って来ました。しかしこのタイトル、ただ一度の展示会で最澄天台宗のすべてを示すなんて、誇大広告も甚だしいなんて思っていました。ですが、興味を持って気にしていると、いろいろと情報が入ってきました。よく仕事でご一緒する天台宗の別格本山深大寺が、国宝の白鳳仏と、秘仏の元三大師像を展示に出すらしいとのこと。深大寺の元三大師像は、座った僧形の像で2m近くあるというもので、去年秘仏開帳の予定が、コロナで中止となっていました。江戸時代には、何度か両国の回向院に出開帳されたそうで、今回はそれ以来205年ぶりの出開帳とのこと。こんな感じで全国の天台寺院が数十年ぶり、数百年ぶりの秘仏を出展するのなら、「前代未聞の世紀の展示」なのではないかと思いました。また、表向きは「伝教大師1200年遠忌記念特別展」となっていますが、その本質的な部分では、コロナ対策の自粛生活で経済的な苦しみ、社会的な疲弊に耐える国民に対して、天台宗が本気出して仏の加護を示して国民を勇気づけようとしているんじゃないか。と勝手に熱い推察をしました。これはぜひ観に行きたい。

f:id:salicat:20211024024353j:plain

ということで、上野公園にやって参りました。若い頃はニセ芸術愛好家を気取っていたので、美術館や博物館にはよく行っていました。上野にもよく日展を見に行っていました。「最澄天台宗のすべて」は混雑や密集を避けるために入場制限しているとのことで、行ってから入れなかったでは困るので、ローソンチケットで事前予約していました。私が伺ったのは土曜日でしたが、当日その場でチケットを買って入館する人もいたようでした。さて、東京国立博物館の門を入ると、正面の本館に乃木坂46の大きなポスターが貼ってありました。芸術にも色々あって、ニセ芸術愛好家は時代に追いつけないようです。

f:id:salicat:20211024024457j:plain

平成館に入ると、音声ガイドが650円でレンタルされていました。この展示が仏教美術を観るものならば、ガイドは要らないのですが、天台宗を学ぶものであるならガイドは欲しいです。ただ、情報が感性の邪魔になる気がして、たかが650円に散々迷って利用するのをやめました。しかし、このガイド音声にも歌舞伎役者を起用していて、本気度が伺えます。

f:id:salicat:20211024024518j:plain

ほとんどの展示物が国宝や重要文化財に指定されているというものスゴい目録を見ながら、見学を進めていきます。この展示は、大きく6部構成になっています。第1部が「最澄天台宗の始まり」。第2部が「教えのつらなり」。第3部が「信仰の高まり」。第4部が「教学の深まり」。第5部が「現代へのつながり」。第6部が「全国への広まり」という構成です。

一番最初の展示は、いきなり国宝の「聖徳太子および天台高僧像」という掛け軸の展示でした。これはかなり興味深くて、時間をかけてじっくり拝観しました。天台宗は中国で興って、日本に最澄が伝えた宗派です。天台大師智顗(ちぎ)が開祖であることは、学校レベルの勉強で学んでいますが、智顗から最澄までの間、どんな僧がいて、誰が最澄までのバトンを受け継いだのか、ということが当人の姿(絵ですが)を見ながら学べて、とても面白かったです。

同じ平安仏教ということで、天台宗真言宗は常に比較されますが、最澄空海もよく比較されます。よく言われているのは、空海密教の全てを受け継いできたのに対し、最澄密教を齧った程度で戻ってきた。密教の真髄について最澄空海に教えを請うたが、空海は応じなかったので最澄より空海のほうが優れている、という話です。葬儀業界で仕事をしていると、仏教に詳しい同業者が多いです。そんな同業者から、この話は本当によく聞きます。どちらが優れているかはさておき、確かに、最澄空海も、遣唐使として教えを持ち帰り、山に寺院を作って修行してと、よく似たことをしているので比較されると思います。密教には確かに不思議な説得力がありますし、空海には超人的な魅力があります。その点、天台宗最澄から始まり、円仁、円珍、良源に源信、天海と、天台僧には教えを求め生涯を捧げ、衆生の支持を集め信仰の対象になった僧たちが数多くいます。仏法僧の中で私が最も大切だと思う「僧」が、天台宗は魅力的なのです。

f:id:salicat:20211024024725j:plain

こちら( ↑ )は、比叡山延暦寺の本堂にあたる根本中堂の内陣の様子を再現したものです。ここだけ撮影可でした。手前の明かりが、かの有名な不滅の法灯です。不滅の法灯は、最澄比叡山に入山し建てたお堂(一乗止観院⇒後の根本中堂)の本尊(薬師瑠璃光如来)に灯した明かりで、1200年間消えていないというものです。正確には信長の比叡山焼き討ちで消失していますが、山形県立石寺に分灯したものを再分灯することで、延暦寺に戻っています。現在も菜種油を継ぎ足しながら明かりを維持しているので、気を抜くと消えてしまうことから「油断」という言葉が生まれたと言われています。

f:id:salicat:20211024024745j:plain

内容の濃い展示で、尽きない興味がどんどん溢れるようでした。特に印象に残ったのは、滋賀県大津市明王院千手観音菩薩及び両脇侍立像という平安時代の仏像です。3体横並びで、真ん中が千手観音なのですごく目を引くのですが、向かって左に不動明王、右に毘沙門天が配されていて、明王院の本尊となっているそうです。この、不動明王の顔(表情)が素晴らしいです。心の中を見透かすような目で、眼光でグリっと射抜かれる思いがしました。展示してあるのは芸術品とも言える像ですが、それ以前に人々が千年の歴史を超えて信仰してきた仏様です。展示物に向かって目を閉じ手を合わぜる人もいました。

もう1つは、東京都調布市深大寺の元三大師像です。そもそもこの元三大師像が出展されるから観に行こうかなと興味を持ったのですが、想像していた以上に生々しいというか、強烈なインパクトがありました。元三大師こと慈恵大師良源は、私はよくスーパースターという言葉で紹介しますが、角大師、豆大師、鬼大師と姿を変えて、衆生を救うために戦う超人なのです。それも形象化されたその姿を見るに、ちょっと変態的に強烈な超人です。その「なんか怖いけどスゴい」という元三大師が絶妙に表現されてる像でした。

f:id:salicat:20211024024804j:plain

出展元の寺院を見ると、やはり延暦寺が多いのですけど、中に園城寺三井寺)所有の寺宝も数多く出展されていました。園城寺天台宗から分派した天台寺門宗の総本山です。他に天台宗から分派した天台真盛宗延暦寺天台宗を合わせて、天台宗三派と呼ばれています。お互い袂を分かった関係ですが、こういうときは関係ないのですね。全くの妄想なのですが、やはり、天台宗の本気と言いますか、この展示の裏に秘められた熱い心意気を感じずにはいられません。この展示は東京上野国立博物館の後、京都と福岡の国立博物館でも展示されるそうです。コロナ禍で入場制限もあり、90分を目安に見学してくださいと書かれていましたが、出口で時計を見たら120分かかっていました。いつの間にそんな・・・と、時間を忘れるほど夢中でした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

ランキング参加中(よろしくお願いします)

にほんブログ村 歴史ブログ 史跡・神社仏閣へ
にほんブログ村

神社・仏閣ランキング
神社・仏閣ランキング