寺社探訪

寺社探訪とコラム

大國魂神社

f:id:salicat:20210522014121j:plain府中駅南口の繁華街にある神社です。旧甲州街道沿いに大鳥居があるのですが、大鳥居から府中駅甲州街道を貫いてケヤキ並木が整備されています。このケヤキ並木は府中市のシンボルとなっていますが、実はこの並木道は既に大國魂神社の参道なのです。昔はケヤキ並木の北端に一之鳥居があったそうです。f:id:salicat:20210522014150j:plain大國魂神社武蔵国の総社という位置付けです。律令制の時代、国を治める国司には任国内の諸社を参拝しなければならない決まりがあったのですが、その後、簡略化するために国府の近くに総社を置いて、そこを参拝すれば良いというルールに変わりました。ということで、武蔵国の総社がこの大國魂神社で、境内に武蔵国の一之宮から六之宮までを祀り、武蔵総社六所宮という社号になったそうです。f:id:salicat:20210522014214j:plainこの神社の社号が大國魂神社に戻るのは、明治維新の後になります。一之宮、二之宮、三之宮というのは、国司が参拝する順番という説と、社格の順番という説があります。現在ではすべての神社の格は平等とされていますが、かつて一之宮とされた神社は、過去の栄光を引きずって「全国一之宮の会」を結成しています。f:id:salicat:20210522025329j:plain大鳥居までは繁華街で賑わっているのですが、大鳥居を潜って10メートルも歩くと、一気に神の領域に入った感が漂います。次の随身門までは長い石畳の参道なのですが、余計なものがない広く静謐な空間で、喧騒の中にいた自分が歩くほどに清められていくような感覚です。f:id:salicat:20210522014419j:plain手水舎は、コロナの影響で柄杓を使用せず、チョロチョロ流れる水に直接手をつけて清める方式になっていました。手水をするとすぐに随身門があります。2011年に新しく改築されたもので、ものすごく立派な門です。私は葬儀業界で働いていて、府中市は私の仕事エリアなので、大國魂神社神葬祭にも関わることがあります。この随身門が完成した時はそれなりに話題になって、完成記念品を見せていただいた記憶があります。f:id:salicat:20210522041606j:plain中雀門を通ると、いよいよ大國魂神社の中心部に入ります。大國魂神社の祭神は大国魂大神となっています。大国魂大神は大国主と同神だそうです。日本神話に登場する多くの神々は天津神国津神に分けられるのですが、簡単に表現すると、天の神と地の神という感じです。

大國魂神社武蔵国を治めるのですから地の神を祀っていて、地の神の主宰神が大国主なのです。大国主スサノオの子孫でこの国を造っていった神とされています。出雲大社の祭神として有名ですね。天の神の主宰神である天照大神と堂々と渡り合える大きな力を持つ神です。f:id:salicat:20210523041933j:plainここまで入ってくると、繁華街の真ん中という立地を感じないです。結界という言葉がありますが、本当に何か大きなバリアで囲われた領域にいる気分です。大國魂神社の本殿は、中殿・東殿・西殿の3殿が横に並んで建っていたそうですが、現在の本殿はこの3殿が1棟の中に並んでいるスタイルとなっています。裏から見ることができますが、朱塗りの立派な本殿です。

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中殿には大国魂大神、御陵大神、国内諸神が祀られています。御霊大神というのが調べてみてもわからないのですが、今度神職さんにお会いする機会があれば、聞いてみようと思います。東殿には武蔵国一之宮から三之宮、西殿には四之宮から六之宮の祭神を祀っています。

ちなみに武蔵国一之宮は多摩市にある小野神社で旧社格は郷社、三之宮はなんとさいたま市氷川神社です。全国の氷川神社の本社ですから、旧社格はもちろん官幣大社で、一之宮よりも総社の大國魂神社よりも上位です。ということで氷川神社武蔵国一之宮を自称しています。歴史的には小野神社を一之宮としている文献も、氷川神社を一之宮としている文献もあるそうです。大國魂神社ではより古い文献を採用しているようで、小野神社を一之宮としているそうです。f:id:salicat:20210523052458j:plain大國魂神社を訪れて思ったのが、摂社末社の見事さです。摂社末社をここまでしっかり建ててお祀りをしていることってなかなかないです。たいていは三社とか五社とかアパート形式で一棟に収めたりします。大國魂神社境内社は、ちゃんと鳥居があって参道があって境内があります。松尾社は京都の松尾大社が本社となっていて、酒の神として信仰を集めていることから、府中の松尾社にもお酒が捧げられています。摂社末社という次元を超えている気がします。f:id:salicat:20210523230901j:plainこちらの巽神社も立派です。巽神社は前回訪れた谷保天満宮の回でもご紹介しました市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)=弁財天を祀っています。本殿の辰巳の方角に鎮座しているので巽神社と言うそうです。f:id:salicat:20210523230749j:plain大阪の住吉大社を本社とする住吉神社と、同じく大阪の大鳥神社を本社とする大鷲神社が合祀されています。それぞれ、本社と同様のご神徳を求めた府中の民衆によって、本社から分霊した御霊をお祀りしているそうです。f:id:salicat:20210523234657j:plainさて、大國魂神社と言えば、毎年5月に行われる「くらやみ祭」が有名です。関東三大奇祭のひとつで、東京都の無形文化財となっています。今年はコロナのために神職による神事のみで、一般市民は参加できませんでした。元々は深夜の本当の暗闇の中で行われていたそうですが、戦後は夕刻からに変更されています。私は葬儀関係の仕事をしていて、府中市は仕事エリアです。私の周りにも、このお祭りと共に生きているような人がたくさんいます。岸和田のだんじり祭や、浅草の三社祭も同じだと思いますが、葬儀で棺の中に長年使い古された祭の半纏が納められているのを見ると、コロナで中止とか、どうにかならなかったものかと思います。f:id:salicat:20210524000318j:plain
こちらはさざれ石です。あまりまじまじと見ることがないのですが、国歌である君が代に登場することから、今上天皇のご成婚の際に奉納されたみたいです。f:id:salicat:20210524005356j:plainこちらは水神社です。かつては上部の祠のみだったそうですが、 境外末社の滝神社から分霊されてこのようにお祭りするようになったそうです。真ん中の竜頭口より流れている水は、深井戸から汲み上げた地下水だそうです。滝神社そのものを境内に移す方がありがちだと思ったのですが、境外末社から分霊するなんてこともあるんですね。f:id:salicat:20210524010857j:plain水神社の裏側には、「人形流し」という儀式があって、人形の形をした紙を流れに落とすという儀式を体験できます。人形を体の病気をしている部分や良くなってほしい部分に擦ってから流すと御神徳を得られてその部分が良くなるとされています。f:id:salicat:20210524011411j:plain

大國魂神社は境内だけでなく、境外にも瀧神社他、いろいろな社があり、また「くらやみ祭」のハイライト「神輿渡御」の目的地である「御旅所」など、府中市内に趣のある建物が残っていることが素晴らしいです。来年「くらやみ祭」が再開できるかどうか、まだまだ先が見えませんが、いつか盛大に再開されたときには、レポートできたら良いなぁと思います。

 

名称大國魂神社

住所東京都府中市宮町3-1

創建:111年

開祖景行天皇

社格官幣小社

主な祭神:大国魂大神

メモ:5月の「くらやみ祭」が有名。